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  • 【特別コラム】デトロイトの二大巨頭 MOODYMANNとTHEO PARRISH

    デトロイトシーンを語る上でこの二人の名前が出ないことはないだろう。
    Face Recordsでは作品のみならず、DJとしても活躍する事であらゆるジャンルのリスナーを繋ぐ架け橋となる素晴らしい二名のアーティストの魅力に迫る。

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    5/2(月)にMOODYMANN, THEO PARRISH特集セールを開催致します!

    二人のオリジナル作品や、DJプレイされる素晴らしい曲を含むレコードを用意しました!

    なかなか見ないレアなタイトルから、安いからといって見逃されてしまっているレコード等をまとめて200枚以上放出致します!

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    THEO PARRISH – 音楽への愛

    セオ・パリッシュは1972年にワシントンDCで生まれ、幼少期をシカゴで過ごした。

    12歳の誕生日にラジオを買ってもらい、そこで多くの音楽に触れることで彼の幅広い音楽の探究が始まったという。翌年の13歳のクリスマスには母親にターンテーブルとミキサーをプレゼントしてもらうと毎日のようにレコードディグに繰り出すことに。14歳の頃には週末になると友人と集まり遊びの延長から楽曲の制作をし始める。2021年にSOUND SIGNATUREから音源集がリリースされた事も記憶に新しいシカゴのレロン・カーソンとの共作「The 1987 EP」に収録された「Insane Asylum」はセオが14歳の頃に制作した楽曲である。

    セオがラジオを聴き始める少し前の世代、シカゴでは白人を中心とするロックが盛んでDISCO SUCKSという運動が繰り広げられていた。ラジオで耳にするロック番組では黒人音楽を否定的な扱いをしたり、レコードに至ってはスタジアムに集められては燃やされているような時もあった。彼の世代(シカゴ第三世代とも言われる)ではごく一部を除き、DISCO SUCKS運動は収まってはいたが、ブラック・サイドの音楽との関係性や、歴史に自ずと意識が向いた。そして伝説として語られるWAREHOUSEや、MUSIC BOXを通じてアンダーグラウンド・ミュージックと密接に関わっていくことになったという。実際にクラブに通い始めた頃、セオはDJが神様のように見えたと語る。今でこそハウスと呼ばれカテゴライズされるその新しい音楽を初めて耳にした時、宇宙からきた音楽のように感じ、同時に父親や母親が家で聴いていたようなスティーヴィー・ワンダー等からの影響や人間味を感じる要素もあったという。そしてフランキー・ナックルズ、ロン・ハーディー、リル・ルイスのようなDJはただ新しいハウスをかけるだけでなく、あわせて昔から愛される音楽も一緒にプレイしていた。ここで得た体験が今のセオ・パリッシュの作品群やDJプレイにも影響を与えている事は明白である。

    セオが人前でDJし始めたのは、大学に入る頃からが本格的でそれまでは自分が日々集めたレコードと、母親のレコード・コレクションでDJミックスの練習を自宅でひたすらにしていたという。限られたものの中であらゆる組み合わせでミックスすることで曲に対する再発見や、ミックスへの突発的なひらめきが生まれたという。

    あなたにとってベストと言えるようなディスコ・クラシックとは?という問いに対して「俺の意見はつねに変わるものだ、“ベスト”と言い切れる曲は無い。良いタイミングで良い曲をかけること。俺にとっては、それができるのならば、それこそがベストということだ」と、2010年に開催された恵比寿LIQUIDROOM6周年イベント出演前のインタビューで答えている。

    ドナルド・バードからリル・ルイスへ、そこからバスタ・ライムスへ繋いでいくようなDJ感覚は我々に新しい価値観と創造性を与えてくれる。繊細であり豪快でもある。緊張と緩和の緩急。期待や想像への良い意味での裏切り。ジャンルレスに、自由奔放に子どものように純粋に音楽を楽しむ彼のDJ姿は清々しいものがある。彼のDJを一度見たら虜になってしまう方も多いだろう。

    そんな彼は楽曲制作やDJに最も必要な資質に、「音楽への愛と、あとは身体と音楽の密接なつながりを認識すること」、「音楽への愛こそがプロデューサー、パフォーマー、DJ達の原動力であるべきだ」と明言している。

    そんな彼が好んでDJプレイする素晴しい楽曲や彼の作品を紹介したい。

     

    Johnny Hammond – Gears (1975, Milestone, M-9062)

    古くは50年代後半から作品を残す名ジャズのキーボード奏者、ジョニー・ハモンドによる1975年作。クロスオーバーな作風を得意とするスカイ・ハイ・プロダクションのマイゼル・ブラザーズがプロデュースに参加した作品。今作のA2「Los Conquistadores Chocolatés」はジャズファンク期を代表する一曲であり、セオも好んでDJプレイしている。

     

     

    Gil Scott-Heron And Brian Jackson – It’s Your World (1976, Arista, AL 5001)

    アメリカのソウル・ジャズ史に残る偉大なアーティスト、ギル・スコット・ヘロンと名プレイヤー、ブライアン・ジャクソンのタッグによるライヴ盤傑作。タイトル曲「 It’s Your World」等の名曲が並ぶ。12分以上に及ぶ長尺だが飽きさせることない C1「Home Is Where The Hatred Is」はライヴならではな躍動的なグルーヴが圧巻である。セオ自身DJプレイもするが、リック・ウィルハイトのSoul Edge EP収録の「Get On Up!! (Theo’s Late Dub)」にてサンプリングに用いている。

     

     

    Theo Parrish ‎– Solitary Flight (2002, Sound Signature, SS016)

    セオの代表的な一曲として挙げる人も多い。映画『Blade Runner』のOSTに収録された「Memories Of Green」とノーマン・コナーズ「Dark of Light」を巧みに用いて哀愁たっぷりなハウストラックへ見事に変貌。上述した「音楽への愛こそがプロデューサー、パフォーマー、DJ達の原動力であるべきだ。この想いがあれば、サンプリングという方法は、盗作でもなく、音作りへの近道でもなく、個性あるの音のコラージュになる。」というセオの気持ちが表れた一曲。

     

     

    James Mason – Rhythm Of Life (1977, Chiaroscuro) (RE-ISSUE)

    ジャズ界のレジェンド、ロイ・エアーズのグループで活動した鍵盤奏者のジェームス・メイソンが1977年に残した唯一のアルバム。セオのMix CD「Eclectic Asthetic (Part 2)」の冒頭を飾る「Sweet Power Your Embrace」や、Mix CD「These Days & Times (Part 2)」でピックアップしている「Free」等、他にはないクロスオーバージャズ、ソウルの一級品が満載のアルバム。捨て曲無しとはなかなか使えない言葉ですがこの作品にはなんの躊躇もなく使えます。

     

     

    Theo Parrish – Musical Metaphors (1997, Sound Signature, SS001)

    セオが自身のレーベルSound Signatureを立ち上げてリリースした記念すべき1作品目。繰り返されるフレーズの中にある小さな変化がじわじわとグルーヴと中毒性を生む。真っ暗なフロアで聴きたい一枚。リリース当時は出荷した700枚の内、400枚が返品されてきたという。時代の先を行き過ぎていた作品。

     

     

    日野皓正 – シティ・コネクション (1979, Flying Disk, VIJ-6020)

    日本人の名ジャズプレイヤー日野皓正の79年作。ジャズにサンバのグルーヴを巧みに盛り込んだダンサブルなフュージョンが並び、良い意味でライトな作風が気分を高揚させてくれる。セオがよくDJプレイするB1「Send Me Your Feelings」も例外ではない。手に入れやすいレコードなので是非手に取ってみて聴いてみて欲しい。

     

     

    Moodymann – Inspirations From A Small Black Church On The Eastside Of Detroit (1995, KDJ 5)

    1996年に同郷リック・ウェイドの自宅で制作していたという「Lake Shore Drive」を、ムーディーマンのKDJレーベルからリリースした一枚。この曲がセオにとって初リリースの作品となる。セオの同志、ムーディーマン。彼の存在がなかったら今のデトロイトシーンはまったく違うものになっていたのであろう。

    続いてはそんなムーディーマンについて迫ってみたい。

     

     

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    MOODYMANN – 地元を愛する男

    盟友セオ・パリッシュと同じくデトロイトシーンの重要人物であるムーディーマン。90年代初頭、ムーディーマンはBuy Rite Records(リック・ウィルハイトも働いていた)等の複数のレコードショップで働きながら、Outcast Motorcycle ClubというクラブでレジデントDJを務めていました。

    94年に彼の本名であるKenny Dixon Jr.の頭文字をとったKDJ RECORDSを設立。当時シーンに突如として現れた彼の存在はミステリアスなものだった。彼の初期の作品はレコードのラベルデザインが一緒でもミックスの違いや収録曲、曲数に違いがあったりと、レコード屋ですらカタログの把握ができない状況だった。デトロイトといえばテクノが盛んであった当時、ムーディーマン特有のブラックミュージックのジャズやソウル、ディスコのサンプリング主体の楽曲や、BPMの遅さは異質なものだった。現在のようにインターネットが一般に普及する以前という事も相まって、ムーディーマンはどこか謎めいた男という印象があったという。

    97年に同郷カール・クレイグの運営するレーベル「Planet E」からファースト・アルバム「Silent Introduction」をリリースする。サンプリングした楽曲にも色濃く出ているが、セオ・パリッシュがそうであったようにムーディーマン自身も親世代のブラック・サイドの音楽からの大きな影響を想起させ、エモーショナルでジャジーでファンキーなどこか怪しげで中毒性のあるトラック群はたちまちヨーロッパで高い評価を受ける。ムーディーマンの人気はここから世界的に確固たるものとなる。

    同年の97年にはデトロイトの盟友セオ・パリッシュ、リック・ウィルハイトと3人で結成されたユニット「3 Chairs」としても活動を開始。(後にT.O.M. ProjectやRotating Assemblyでも活動するマーセラス・ピットマンも加入する)3 Chairsの楽曲は執拗にオーバーダブされた重厚な低音に撚れ感のあるリズムや遅めのBPM、はたまたディスコクラシックスをサンプルしたファンキーでドライブ感ある楽曲で、他のハウスとはまた違う独特の質感を持ち、デトロイトサウンドとして人気を博す。

    勢いをそのままにUKの名門レーベル「Peacefrog」レーベルより98年にセカンド・アルバム「Mahogany Brown」をリリース。翌年99年には代表曲ともいえる「Shades Of Jae」等のシングルをリリースしつつ、2000年に「Forevernevermore」、2003年に「Silence In The Secret Garden」、2004年に5枚目の「Black Mahogani」と数多くの傑作を生む。黒いハウスと言えばムーディーマンであり、ここ日本でもアルバムリリース日に完売が続出する人気を確立。

    2002年に設立したMahogani Musicではデトロイトの伝説的なHIPHOPユニットSlum VillageのサポートメンバーでもあるDJデズ a.k.a. アンドレスの作品をリリースし、デトロイト、シカゴのアーティストのフックアップにも力を入れるように。2012年にはJ DILLAの未発表音源を収録した「Dillatroit」をリリースしたりと地元デトロイトへのリスペクトや誇りが伺える。

    ムーディーマンは自身の名前をタイトルに掲げた意欲作を2014年にリリースした際に粋な事を行っている。流通する一部に自身の過去作品を’’1枚当たり’’として封入し出荷した。販売を行うレコード屋にも知らされずに、購入したリスナーの手元に届いた時に初めてサプライズとして知られ、その噂が広まった。レコードの楽しみをムーディーマンなりに表現したユニークなアイデアに驚いたのを今でも覚えている。

    また、2020年には売上が低迷するレコード屋を支援する目的で無告知でコンピレーション作品をリリース。レコード屋にはネット上で告知をしないようにメッセージが添えられていた。これは足しげくレコード屋へ向かうファンへの嬉しいサプライズとなった。ムーディーマンは2007年に「Technologystolemyvinyle」という作品をリリースしているが、こちらもローカルなレコード屋の存続が危うい事態に直面した時に作曲した一曲だという。レコード文化に対する意識と地元を愛するムーディーマンらしい作品を通じてのメッセージだったと言える。

    続いてはそんなムーディーマンの作品を紹介

     

    Moodymann – Black Mahogani (2004, Peacefrog, PFG050LP)

    ジャズとダンスミュージックの絶妙なブレンド具合は芸術的でどこか怪しげな心奪われる色気が満載。地元デトロイトのアーティスト、アンプ・フィドラーを迎えたシングルとはミックス違いの「I’m Doing Fine」やノルマ・ジーン・ベルをフィーチャーしたエモーショナルな「Runnaway」も素晴らしい。随所にインタルード的に配置されたトラックも全体の完成度を高めている。

     

     

    Moodymann – Moodymann (2014, KDJ 44)

    2014年にリリースされた11作目のアルバム。今作ではソウルやファンクなテイストが色濃く反映されている。そこにムーディーマン特有のジャジーな要素も相まってしまうのだから驚きである。デトロイトにて自身が企画するローラースケートフェス「Soul Skate Detroit」にもライヴ出演をしていたP-FUNKのレジェンド、ジョージ・クリントンを迎えた「Sloppy Cosmic 」や、大ファンである事を公言しているプリンスからの影響も大きく感じる、同郷DJデズ a.k.a. アンドレスとの共作「Lyk U Used 2」等を収録している。自身の名前を掲げた意欲作だという事が伝わるアートワーク同様にお腹一杯になる充実した内容である。

     

     

    Moodymann – Shades Of Jae (1999, KDJ 21)

    ボブ・ジェームスの「Spunky」とマーヴィン・ゲイのロンドン・パレディアムによるライヴ盤に収録された「Come Get To This」のヴォーカルサンプルが限界まで焦らしの効いたハウスビートと相まり、見事な調和を起こす。サンプリングによるマジックと面白味を最大限に感じられる歴史的一曲。

     

     

    Moodymann – Technologystolemyvinyle (2007, KDJ 35)

    ジャズ代表する名門BLUE NOTEでも数多くの作品を残す名ギタリスト、グラント・グリーンによるジェームス・ブラウンのグレイトカバー「AIN’T IT FUNKY NOW」をサンプリングし、ムーディーマンの得意のジャズとファンクネスが相まった珠玉のデトロイト・ハウス

     

     

    3 Chairs – No Drum Machine Pt. 2 (2006, Three Chairs, 3CH 6)

    最後に。セオ・パリッシュ、ムーディーマンの二人に加え、同郷リック・ウィルハイトとマーセラス・ピットマンを加えた4人編成の3 Chairsによる一枚。見事に化学反応を起こした3 Chairsサウンドはジャズやテクノやハウスやヒップホップ等あらゆる要素を感じカテゴライズする事ができない唯一無二の質感である。

     

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    今回は数々の名作を残し、現在も精力的に活動する偉大な二人のアーティストに追ってみた。

    音楽を愛する二人のアーティストが今後も我々のようなリスナーや新世代のアーティストに感動と影響を与えてくれる事を楽しみにしたい。

    Face Recordsでは人と文化を繋ぐ拠点として、音楽・レコードを通じ作品やメッセージを皆様と共有し伝承していけるよう、より一層の努力をしてまいります。

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    [今回の記事作成にあたり参考にした資料]

    ・「恵比寿LIQUIDROOM 6周年イベント:THEO PARRISHインタビュー」2010年06月30日掲載記事

    ウェブサイト https://www.liquidroom.net/feature/2010/06/30/7874

    ・「THEO PARRISH 自分だけの居場所を求めて by Yuko Asanuma」WAX POETICS JAPAN NO.19 掲載記事:2011年12月30日発行

    ・「Moodymann(ムーディーマン)」HOUSE MUSIC LOVERS 2019年6月9日掲載記事

    ウェブサイト https://www.liquidroom.net/feature/2010/06/30/7874

     

     

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