FACE RECORDS WEB STOREリニューアルオープン & 創業25周年記念

ピーター・バラカンさん特別インタビュー 前編

2018年10月5日

Face Records(以下 F):前回インタビューさせていただいたのは、2010年くらいですよね。

Peter Barakan(以下 P):(前回の写真を見て)たった8年前?え、こんなに老けたんだ。おそろしい。(笑)

F:あれからすぐ、Face Recordsは宇田川町のCISCO坂に移転しました。2016年に下北沢にロックとジャズをメインに取り扱うGeneral Record Storeをオープンしました。そして、今年の7月末にはニューヨークにお店を開けました。

P:どこですか?

F:ブルックリンにオープンしました。70年~80年代の山下達郎、細野晴臣、YMO等やアバンギャルド、現代音楽の高田みどりなども販売しています。最近では世界的にもそういった日本の音楽が再評価されています。アジア人や欧米人も買っていかれますし、Future Funk、Vaporwaveといったジャンルからも歌謡曲やCity Popが広まっていると思います。ピーターさんはリアルタイムで80年代の日本、東京の音楽シーンの中枢にいらっしゃったと思うのですが。

P:そうでもないですよ。YMOのところにいたのだけど、全体を捉えているとはとても言えない。

F:そういう状況に関して、わざわざ世界中から東京にレコードを探しに来ている人が増えているので、長年レコード店をやっていますが、かなりビックリしています。ピーターさんはどう思われますか。

P:僕もすごく驚いています。YMOの事務所で僕はどちらかというと彼らの楽曲の著作権を海外に売り込むような仕事を一番最初はしていました。実際に入ってしまうと他の仕事もいっぱいありましたが。なかなかヨーロッパなんかでは興味を持ってくれる人は少なくて、ちょっとマニアックな人たちがときたま興味を示してくれたものの、それ以外はほとんど話も聞いてもらえない状況だったんですね。今となってあれから35年ぐらい経って、YMOだけじゃなくて、いわゆるCity Popと呼ばれる音楽だったりとか。日本そのものに対する興味を持つきっかけはアニメだったりしたかもしれませんね。

F:その80年代のちょっと浮ついた感じというか、浮世離れしたような日本独特の感じは世界中のどこを探してもないかなという感じはするんですけど。景気がよかったのでレコード会社も実験的なこともやったりだとか、商売を度外視して色んなレコードを作っていたようなところもありました。

P:そうですね。あと、レコードマニアの間でたぶん、これは聴いたことがなかったっていう新しいもの好きというか、世界中の音を色々と聴いてきたんだけど、日本のものは聴いたことはなくて、意外にちょっと新鮮味があるのかもしれませんね。中には細野さんのように誰が聴いてもその才能がわかる人達もいる。細野さんがプロデュースしたユニットのテスト・パターンをオレゴンのポートランドのレコード店からLPを入荷したいがどこにもないと連絡がきました。歌詞を僕が手伝ったことで名前がクレジットされていたみたいで、うちの棚を探したのですが持っていませんでした。そういうほとんどの日本人すらあまり知らないようなレコードを探している人がいるというのには本当にビックリしましたね。

F:そうですよね。テレビで「YOUは何しに日本へ」という番組で、大貫妙子さんのレコードを探している海外の方が特集されていました。結局、そのアルバムも反響があって二回リプレスに至ったようです。発売されてからずいぶん経つのに今またその様なレコードブームがあります。

P:テレビの力は怖ろしいですよ。

F:そうですね。当時はそんなにプレスされていなかったものが、再評価され希少価値が出てきて、再プレスされています。当時リアルタイムで良いと思われていたものが、やはりリバイバルされているのでしょうか。

P:そういうものもあると思います。逆にものすごくマニアックで、先程言ったような日本人も知らないようなレコードが今ヨーロッパとかアメリカの一部な人達の間かもしれませんが「Light in the Attic Records」っていうアメリカのレーベルで70年代の日本の音楽のコンピレーションが発売されました。細野さんもこのレーベルから3枚くらい出してます。イギリスのJulian Copeも日本のロックについてかなり分厚い本を発売したことがあります。日本語訳も確かP-VINEから出ていたと思います。(注1 JAPROCK SAMPLER 2016年発売)間違いも多いみたいですけど、大体日本語の資料しかないものが圧倒的に多いでしょうから無理もないかもしれない。誰か個人がものすごくのめりこんで、興味を持ってるとそれが波及するということもあるんだろうなという気もしますね。イギリスに「Wewantsounds」というレーベルがあります。そのレーベルをやっているのはフランス人なんですけど奥さんは日本人で、彼も日本の音楽に興味を持っていて、ついこの前、79年にkittyから出した「佐藤博 - Orient」の権利をとってアナログ盤でリリースしました。 「Wewantsounds」から今度は「矢野顕子 - ただいま。」も出すそうです。

F:相当色々出ますね。本当にビックリです。

F:先ほどの話の続きになります。日本の文化ということもありますが、最近衰退するまでは、CDが主流の時代でした。どんどん配信の時代になっていって、若い子からCDを買ったことがなくて、プレーヤーの使い方もわからないという話をたまに聞きます。昔は好きなアーティストがアルバムを発売すると試聴もしないで買って、ちょっと微妙かなと思っても、何回も聴いて好きになるというか、そういう音楽に対しての価値がかなり高かったと思います。今は聞き流してしまったりだとか、Apple Musicも自由に聴けるので、一曲に対する印象や思いも薄くなりがちだと思います。配信についてはどう思われますか?

P:確かに仰る通りですね。僕もSpotifyのアカウントを持っています。使い方は人とちょっと違うかもしれませんが。ほとんどのものは検索すればすぐ出てくる。CDを買わなくてもすぐ音が聴けるので、この上ないくらい便利。そういうのではなくても、例えばiTunesの中にも曲がたくさん入っていますが、CDで持っていなくてもデータだけで持っているものも結構あります。ただね、忘れちゃう。モノがそこにないと、コンピューターの中にデータとしてあっても、半年後にスクロールしていると、あっ!こんなものが入ってたんだと自分でも驚くぐらいで、これじゃいけないなと思いますね。多くの人も同じだと思うんですよ。モノがそこにないと、その存在を忘れてしまう。音の良し悪しはとりあえずおいといてそれが一番大きいんじゃないかな。そういう意味ではCDよりLPの方が場所もとるし大きいから存在感がある。

F:配信が主流になるとアーティストがどんどん食べれなくなるような状況になっている気がしています。

P:ミュージシャンが収入を得るのには、Spotifyでは何百万回、何千万回と聴いてもらわないことにはまともなお金は入ってこないと思います。ライヴに頼るようにまたなってきましたね。元々ミュージシャンの活動っていうのはライヴが中心で、レコードが大量に売れるようになった時代っていうのは70年代以降だと思うんですよ。60年代の音楽業界はそんなに規模が大きくないし、70年代以降ヒットレコードは数百万枚とかものすごく売れるようにはなった。でもいつの時代もそういうものは一握りですからね。それ以外の70年代のアーティストで例えば、Ry Cooder、Little Feat、Randy Newmanそういった人たちは数万枚だと思うんですよ。うまくいって10万枚~20万枚。そこまで売れればミュージシャンにとってはある程度の収入にはなるんですけど。でも大手のレコード会社と契約していると、アドバンス(製作費)を貰うんですよ。総売り上げからそのお金を償却して行くので、印税が入ってくる人はほとんどいない。逆にいつまでもレコード会社に対して、赤字の状態でいるミュージシャンの方が圧倒的に多い。CDの時代に変わっていくと、旧作、LPは製造中止になってしまうんだけども、CDでもう一度出すからLPで持っていた人がCDで同じものを買い替えるという現象が80年代後半から90年代にかけておきるんです。そうするとレコード業界がものすごく元気になったんです。ミュージシャンもレコード会社もかつてないぐらい収入がばんばん入ってくるんですね。ただ旧作を出し直すというのはいつまでも続くものではない。一通り全部出した後、売れるものはプレスし続ける。そうじゃないものは廃盤。レコード会社はアナログの時代はシングル盤というものがあったから、お金のない若者などはいつの時代もシングル中心で買っていた。CDが売れるようになってからレコード会社はシングルというものを出さなくなった。アメリカだったらアルバムでもそこそこ若者でも買える価格だったかもしれないけど、日本盤は特に国内のミュージシャンに関しては3000円やそんなんで出していたからなかなか大変だったと思いますよ。だからファイル交換が可能になってから、それ以降CDがだんだん売れなくなるのは当たり前の話だと思っています。今は逆にアナログのレコードに新鮮味があるし、場合によりけりだけど、音が一番良いというのもあるかもしれない。こんなこと言いながらも事実として、今はもうストリーミングの時代になっている。音楽に限らず。今はモノを持たないというシェアリング・エコノミーの時代になりつつあるから、特に若い人はそういうものの考え方をしている人が多いと思います。だからCDというのは、もうあとどのくらい残るのかな。

F:そうですね。日本はかなり珍しいケースだと思います。

P:日本でも結局、アイドルとアニメが今のCD市場の半分以上だそうです。僕なんかが好むようなレコードは100枚売れるか売れないかというものが多いと思いますよ。レコード会社は最近洋楽で出さないものもすごく増えている。かつて日本国内盤が出ることに意義があった時代だったけれども、最近特に若い人は日本語の解説をそんなに必要としないし、音があればいいというある意味健全な聴き方かなとも思います。音楽業界の形がさらに変わっていくと思いますが、昔のような形に戻ることはまずないでしょうね。

F:レコードがまた主流になることはないとしても、CDが廃れていくことでレコードに戻ってくるということはあるのでしょうか?

P:レコードは絶対数が昔のような数にはおそらくならないが、廃れてしまうこともないでしょうし、あの音が好きだっていう人が少なくとも残るでしょうね。どれくらい増えるか増えないかはわからないですが。

F:出来るだけレコードで出てるものはレコードで購入されますか?

P:いや、そうでもないですね。やっぱり自分が住んでいる空間が限られているから、基本的にもう置くところがないですね。

F:去年イギリスからレコードを持って来られたというお話を伺いました。

P:そうですね。母の家に40年置いてあったレコードを数百枚収めたら、もう入れるところがなくなってしまいました。ちょびちょびと買うことはあるんですけど、買うものはCDの方が多いかな。ラジオ番組をやっていなかったら、今持っているものの半分くらいは処分すると思う。実際に聴くか聴かないかと言ったら、聴かないものの方が多いんですけど、要するにライブラリーとして置いてあります。いつかラジオ番組で使う可能性があるものは、やっぱりずっと置いている状態ですね。僕は自分の持ち家があるから恵まれている方だと思います。マンションで暮らしている人はもっと置くスペースが限られているだろうから。

F:うちのスタッフは家の底が抜けないか心配しています。(笑)

P:そうするともうどうしたらいいんだろうな。ライブラリーを設けるべきかもしれないね、珍しいレコードも含めて。綺麗にというか大事に扱うことを前提で人に貸し出すことも考えるようなね。共有の財産みたいな。いや、デジタルに対してまずそれを先にやるべきだと思ってるんですよ。ラジオで仕事している人間にとっても、これからはどうやって音源を手に入れるかっていうのがかなり難しくなってくると思います。CDが出ても限定枚数ですぐなくなってしまう。なくなってしまった後はじゃあどうするのかと。Spotifyを繋いでそのまま放送することは技術的にはできるけど、権利的にはだめなんです。だからレコード会社がそういう共有できるようなクラウドのサイトを何か作ってくれたらどんなに助かるか。それはあくまでも業界内の話なんですけど。一般ユーザーでは、レコードはかなり音楽に対して関心が高い人が持つんじゃないかと思います。

F:レコードをご処分される際は是非うちへお願いします。(笑)

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