2022年4月銀座東急プラザ内にオープンしたSpace Is the Place by Face Recordsでアートにフォーカスしたレコードジャケットの展示会『A WORK OF ART VINYL』に付随して、トークライブを開催しました。
『A WORK OF ART VINYL』の著者MAKI様、Discogs Japan 保田寛史様、FTF株式会社の武井進一が対談し、ウォーホルやバンクシーなど、現代アーティストによるレコードジャケットにフォーカスし、アートとしてのレコードの魅力を、レコード蒐集家、老舗レコード屋、Discogsマーケットの三つの視点から立体的に語り尽しました。
前編に引き続き、後編になります。
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MAKI:
一個、リヒターについて。
ゲルハルト・リヒターっていう、ちょっとアメリカの展示とはやや逸れますが、ご紹介しておいた方がいいかなと思いまして。
ゲルハルト・リヒターは今でもまだ生きてらっしゃる。
現存する作家で、もう88歳くらいだったかな、かなりおじいさんではあるんですけどやっていらっしゃる方で。
現存というかご在命の作家の中では、一番高額じゃないかな。
最高額の人ではないかなと言う人ですね。
お亡くなりにならずにならずにもっと頑張って欲しいですけど、亡くなってしまう場合はさらに作家さんの値段が上がるって言うのが通常なので、今後もっと天文学的な数字になってくるだろうなと。
リヒターも非常に柔軟な方なんですかね。
ちょっと人柄は存じ上げないのでわからないですが、いろんなレコードに関わっていらっしゃいます。
古くはソニック・ユース。ソニック・ユースのデビューCDですよね。
一番上に乗っていますから。
Discogsってこれ時系列順ですよね?
保田:
そうですね。時系列順です。
MAKI:
Discogsのこの一番上に乗っている、夕日みたいなレコードなんですけどね。
これ Death Valley ‘69 っていう。
これは7インチなんですが、これの文字と写真はリヒターがやっています。
これは1984年?
保田:
1984年ですね。
MAKI:
84年からソニック・ユースやってたんだっていう、そこも驚きなんですけど。
そこでも既にリヒターと、まぁメジャーじゃないソニック・ユースがちゃんとこう目線があっているからすごいですよね。
ソニック・ユースもすごいし、リヒターもその寛容さというか。
リヒターも84年は、もう割と有名だった方なので。
90年代は、そこそこいい感じになっていて、2000年を超えたときには神のレベルになっているので。
プロの作家として世界的にも認められた時代だったけれどもソニック・ユースとかもやっているというところはすごいなと。
これはVol.1に載せていますので、いい本だと思いますので、ぜひお買い上げいただけたらと思います。
っていうリヒターは他にもあって、いくつか持ってきたんですけど。
これは有名ですよね。
ソニック・ユースのDAYDREAM NATION。
これ何年でしたっけ?
保田:
1988年ですね。
MAKI:
これ88年の曲なんですね。古いですね。
もうねリヒターがかなり有名になった頃の、このローソクの作品って実はソニック・ユースのレコードは知っていたんですけど、実はローソクがリヒターって後から知ったんですね。
不勉強で大変恐縮ですけど。
アートを知っている方には当然っていう、基本中の基本ですけど。
正直なんでローソクなんだろうと。
そんなにいいと思わなかったんですけど、このジャケット自体が。
リヒターと知ってからすごくやはり深まったなっていうのがこのローソクの作品で。
ローソクのジャケットは、これ写真じゃないんですよ。
描いているんです、リヒターが。
ピンボケの写真に見えるじゃないですか。
ピンボケの写真を自分で描くっていう、これ僕の解釈ですけど、昔ローマ時代とか、昔の壁画とかありますよね。
あれって、写真がなかった頃に記録として残すために上手い画家さんが壁とかああいうところ、残しておけるところに描いたっていう、記録するための絵、そういうことへのリヒター的な解釈の表現じゃないかなと思うんですよね。
今、写真は誰でも撮れる。
その写真のボケたところを描くって言う、普通ではないこの表現で感動させる芸術性はすごすぎます。さらにそれを採用した88年のソニック・ユースもすごくセンスがあるなって改めて感じます。
これもボケた写真なんですけど。
ソニック・ユースって過激なロックのバンドだと思うので、その辺をリヒターがすごく理解してやっているっていうのがすごく興味深い。
リヒター、実はクラシックの、現代音楽のCDとかにはすごく作品を貸したりしているんですね。
ここに出ているんですけど。
ここら辺の、写真シリーズの中の谷みたいな、これCDなんですよね。
これは僕も持ってますし、Vol.1にも載せています。
これも写真シリーズですね。
渓谷のやつを多分描いているんですよ。ボケた感じに。
これはジャズかな。
フリージャズとか現代音楽のアーティストさんには結構貸したりしているんですね。
やってはいるんですけど、ロックってそんなにないですよ。
この下もフリージャズとだいたい現代音楽ですね。
それでCDが非常に多いです。
っていうアーティストさんなんだけど、ロックとかハウスとかテクノとかも結構やっていて、いつだったかな。2010~2020年よりちょっと前くらいのやつですよね。
これもリヒターが絡んではいる。
貼ってあるやつなんですけどね。
テクノでした。曲はあんまり覚えてないんですけど。
これは一応、東京の12インチ屋さん、ダンスミュージック系の。マンハッタンさんとかテクニークさんとかにも入荷はしていたみたいです。
僕が見たときはどこも全部ソールドアウトだったので、買えなかったんですけど、それでずーっとこう中古で探していたんですけど、いよいよ出てこなくて、ドイツで買って、今日は一枚しか持ってこなかったんですけれど、3枚あるので全部買いました。
今新品のものは世界中どこでも売ってないっていう。
リヒター。割と最近のやつ。
もう一個。もう一個は忘れてきましたね。
もう一個はあったんですよ。それをちゃんと見せなきゃいけないのに忘れてきましたが、それは限定300枚で、Vol.1に掲載しています。
タロットプレーンっていうグループの12インチ。これにはちゃんとリヒターのクレジットが入っています。
で、限定300枚って書いてあったので、ものすごく一生懸命買って、今4枚あります。
すごく今後レア化するのではなかろうかと思ってはいるんですけど、Discogs上では結構売っています。
意外に売っています。
本当に300枚なのかちょっと怪しいんですけど。
300枚なのにそんなに売ってるの?っていう。
一昨日、下北沢のジェネラル・レコードで見つけたので買いました。
それで4枚目になりました。さっきのやつとね。さっきのこのレコード。
リヒターの割と最近のレコード。
タロットプレーンは2017年。
それでさっきのCDも2017年ですね。
だから5年くらい前に出ている、両方とも。
っていう、非常にテクノからロック、あと現代音楽と。現代音楽はすごい好きそうなんですよ。リヒターは。
もともとやっぱりクラシックの人なので好きそうなので、そことの紐付きは分かりやすいんですけど、84年とか88年とか、まぁ88年のソニック・ユースは割と有名なんですけれど、84年はまだ本当にインディーズにちょっと毛が生えたくらいだと思うので、そこの彼らに理解を示したっていうのは、結構リヒターのセンスだなあと。
ゲスト:
キム・ゴードンと、リヒターの奥さんが仲がよかったらしいですよ。
それの繋がりで、ソニック・ユースのジャケットをやったっていうのは、自伝に書いてありました。
MAKI:
あ、そうなんですか。へぇー。なるほど。
キム・ゴードンっていうのは、ソニック・ユースの女性の人ですよね。
すごいですね。
ゲスト:
リヒターはあんまり乗り気じゃなかったっていう話も書いてあります。
MAKI:
へぇ、そうなの?
なるほど。なるほど。まぁまぁ、そういうのもいいですね。
今後やっぱり、それもバンクシーと同じような現象になっていくんじゃないかなって僕はなんとなく思っています。
っていうのがリヒターのレコードですね。
という、リヒターからじゃあソニック・ユースにいくとすれば、ソニック・ユースもすごくいろんなアーティストと絡んでいますね。リヒターも然りなんですけどね。
これはクリストファー・ウールっていう人ですよね。
クリストファー・ウールのは、よくご存じだと思うんですけど、ステンシルの文字だけで作品を作る人ですね。
ご存じの人は「あーあれね」っていう感じだと思うんですけど、これもソニック・ユースジャケットを手掛けています。
このシングル盤ですね。
これも「文字を打っただけじゃん」って思うところだと思うんですけれど、クリストファー・ウールの代表的な手法で、その視点で見ると非常に味わい深いジャケットだなと思いますね。
で、このRATHER RIPPED、実は再発なんですよ。
CDはこれがオリジナルデザインで、LPのオリジナルデザインはこれなんですよね。
「それで?」って話ですけどね。
コレクターはそういうのがすごく気になるっていうところで。
あんまり文字がソニック・ユース、RATHER RIPPEDって入っていないところがちょっとあとっぽい感じ。
これもシュリンク開けてないです。まだ。
ソニック・ユースの看護婦さんのリチャード・プリンス。
リチャード・プリンスは、最近のレコード作品というと「ドライブ・コールド・クエスト」これはLP。LPがこれでしたっけ。
これは日本オンリーでしたよね。7インチ。
7インチ日本オンリーってことで、こっちの方が価値があるかなって思って僕は買ったんですけど、僕はあんまり好きな絵ではないんですけど、これがリチャード・プリンス。
看護婦さんと同じ人。
ロイ・リキテンシュタインね。
これはオフィシャルじゃないと思いますが、THE CLASHのセンターラベルのところに、この銃を構えているのも、ロイの代表的な作品で。
このCLASHが使ったイラストはおそらくロイのオフィシャルじゃないけど、かなり意識して作ってますね。
これがロイのオフィシャルですけど、この絵があるんですね。
この絵をトリミングしてるのかな。
ロイ・リキテンシュタインのサインが入っているので、かなり親和性が高い。
これがディスコっていうか、ユーロ・ビートみたいなやつで曲は全然良くないです。
これを探すためにユーロ・ビートのレコードコーナーで探すんですけど。
ユーロ・ビートは好きじゃないんですが。
これが欲しいのでずっと探しています。
なかなか出てこないんですけどね。
それのバージョン違いがこれで、12インチがそこになかったり。
これがリキテンシュタインの有名な絵のトリミングですね。
話があちこち行きますが、さっきのクリストファー・ウールの文字。
クリストファー・ウールの作品、クリストファー・ウールが作ったレコードジャケットですね。
BODY/HEAD。
音楽がどんな感じかは忘れましたが….。
という感じで、お見せすると止まらない感じで、いっぱい色々あって、これもアーティスト・作家さん、芸術家が関わっているので、これは一つアートみたいな視点をもってもいいのかなと思っているのが、今回このトークショーで伝えたかった背景ですね。
僕はずっとお会いした人には伝えているんですが、なかなかお話しする機会もないので、一回ちょっとお話しできたらいいなと思ったのが今回の意図でした。
そうそう。これをちょっと紹介しておこうかな。
僕が一人で勝手にやっているわけでもなくて、アメリカでは結構この活動は盛んで本も何冊か出ています。
アートレコードだけの本。
「アート レコード カバーズ」っていう、これはもう僕のバイブルみたいな感じになっています。
これに載っているもので、「こんなのがあるんだ」「このアーティストのこのジャケットってアート作家がやっていたんだ」っていうのを知るきっかけとなりました。この本を全部インプットして、レコード屋さんで日々アートレコードを掘索している訳です。
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【MAKI】
アートヴァイナル蒐集家。レコードを音楽として楽しむだけではなく、レコードジャケットにアートとしての価値を見出す観点から、レコードを楽しむことを提唱している。
『A WORK OF ART VINYL』の著者→アートとしてレコードを楽しむビジュアルブック。好事家から入門の方まで、レコードを目で楽しめるガイド的な本の編著者。
Instagram : mkttka
Twitter : https://mobile.twitter.com/tkamkt
【A WORK OF ART VINYL 商品概要】
【『A WORK OF ART VINYL VOL.5 – the beginning of NEW WAVE -』 展示会開催】
現代アーティストの手になるレコードジャケットを集めたアートレコードガイドブック『A WORK OF ART VINYL』シリーズのVOL.5が7月上旬に発売されるにあたり、記載のレコードジャケットの展示会を、Space Is the Place by Face Records(東急プラザ銀座5F、運営:FTF株式会社)で開催します。
今回のテーマは”the beginning of NEW WAVE”
80年、世界各地で同時多発したNEW WAVE特集です。