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  • ジャズに新しい波を巻き起こしたレーベル、インパルス

    ジャズファンから愛されるレーベルの一つにインパルスがある。初期から中期にかけてのレコード作品はどれもラミネート加工された重厚な見開きジャケットで、アートワークも芸術性を強く感じさせる秀逸なデザインが多い。楽曲を吹き込んだアーティストもバラエティーに富んでおり、当時のジャズ人気を引っ張った重要人物も多数含む。

    Face Recordsはそんな素晴らしいインパルスの魅力にスポットライトを当ててみたい。

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    また、先日のVERVEに続き、3/12(土)にIMPULSE特集セールを開催致します!

    今回の目玉はAHMAD JAMALの”THE AWAKENING” 美品を放出!

    最近めっきり見なくなったと思ったらここ数年で国内外問わず一気に高騰中…。手に入れるなら……イマでしょ!

    さらに!JOHN COLTRANEの名盤 “BALLADS”のMONO盤やPHAROAH SANDERSの”KARMA”もあり!

    ※加えて、IMPULSE以外のFREE JAZZも50枚ほどピンポイントで放出します!

    放出ラインナップはこちらから!

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    インパルスが持つ魅力

    インパルスの魅力として、まず音楽としてのクオリティの高さが挙げられる。同レーベルから作品を発表したアーティストは初期だけでもジョン・コルトレーンを筆頭に、デューク・エリントン、カウント・ベイシー、コールマン・ホーキンス、チャーリー・ミンガス、ソニー・ロリンズらジャズの歴史に名を残す錚々たるメンツがいる。名盤として高い人気を集める作品も多くあり、今なおファンの心を掴んで離そうとしない。

    そして、まるで芸術品かのような、レコードとしてのデザイン性の良さも魅力のひとつだ。インパルスの作品には見開き仕様ジャケットが多くあり、特に初期から中期にかけての作品には美しさを際立たせる贅沢なラミネート加工が施されている。同レーベルにおいて多くのアートワークを担当したロバート・フリンの優れたデザインも特筆すべきことだ。

    「ジャズの新しい波はインパルスが起こす(THE NEW WAVE OF JAZZ IS ON IMPULSE!)」

    1961年にリリースされたインパルス記念すべき第1作目、J・J・ジョンソン とカイ・ウィンディングによる『ザ・グレート・カイ & J.J.』のジャケットにはこんなコピーが踊った。オレンジ色と黒に彩られた裏表紙と背表紙はインパルスの特徴であり、それがレコード棚にずらりと並べば愛好家の目にはいつも華々しく映る。

    最高の音楽、そして最高のデザイン。この2つがインパルスを人気レーベルに成り立たせている要素だ。

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    ラミネート加工された高級感漂うジャケットはインパルスの特徴。裏表紙にはキャッチコピーが誇らしく輝く

    1960年、米大手ABCパラマウント・レコードはジャズを専門的に扱う子会社としてインパルスを設立。ベツレヘムで手腕を振るったプロデューサー、クリード・テイラーを招聘してのことだった。テイラーはインパルスにおいてプロデューサー兼A&Rとして活躍。当初彼はレーベル名を”パルス(pulse: 英語では鼓動、波動、躍動といった意味を持つ)”としたかったようだが、既に同名のレーベルが存在することから、「im」という接頭辞を付け足しインパルス(Impluse)とした。テイラーは、アトランティックと契約を終えたばかりのレイ・チャールズにレコーディングの機会を与え、『ジニアス+ソウル=ジャズ』を発表。同作はレーベルで最初のヒットとなり、チャールズ自身にとってもキャリア4番目となる上位チャートを記録したのだ。

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    その後、インパルスが新たに契約したアーティストにはジョン・コルトレーン、アート・ブレイキー、オリヴァー・ネルソンら一流ミュージシャンが続いた。しかし、プロデューサーであるクリード・テイラーは1961年夏に当時ヴァーヴの親会社だったMGMから誘いを受け同社へと移籍。テイラーの名がクレジットに記されたのはギル・エヴァンスの1962年作『イントゥ・ザ・ホット(AS-9)』が最後となり、カタログ上でその次のアルバムにあたるジョン・コルトレーン『アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード(AS-10)』には新しいプロデューサーとしてボブ・シールの名が刻まれた。

    シールはバンドでクラリネットを演奏した人物であるほか、10代の頃に自身がホストを務めるジャズのラジオ番組を持ったり、自らジャズ雑誌を発行したりして活動した。また、1939年には僅か17歳という若さにしてジャズレーベル、シグネチャーを立ち上げた経歴を持つ。1940年代終わりにレーベルとしての活動を一時休止するまで、彼は作品を世に送り出していった。シールは1952年になると米国デッカへと加入、その子会社であったレーベル、コーラルを運営していた。

    ヴァーヴへと移ったテイラーからその座を引き継ぐ形で、シールは1961年から1969年までプロデューサーとしてインパルスを牽引した。彼の役目は既に同レーベルで活躍するアーティストを熱心に支えたほか、デューク・エリントン、チャールズ・ミンガス、ソニー・ロリンズ、そしてアーチー・シェップらジャズシーンで活躍する実力派ミュージシャンに白羽の矢を立てインパルスへと迎え入れた。特に、コルトレーンやファラオ・サンダースたちが旗手となり時代の先頭を駆け抜けたフリージャズ・ムーブメントはシールがインパルス在籍時に残した偉大な功績だ。ABCパラマウント・レコードによる優れたプロモーションと販売網にも助けられ、とりわけコルトレーンの作品は大きなセールスを記録。中でも1965年に発表された『至上の愛』は高い評価を受け、批評家からは「戦後最重要ジャズアルバムの一つ」と称賛された。コルトレーンは1967年に肝臓癌が原因となりこの世を去るが、死してなお彼と同作品の影響力は未だに衰えることを知らない。

    「ジャズに新しい波を起こす」というスローガン、斬新な音楽を制作するミュージシャン、そして先進的でありクリエイティブな作品。それまでの著名なジャズレーベルにも決して負けない、クオリティの高いサウンドと芸術性がインパルスにはあるのだ。

    作品紹介

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    John Coltrane / Ballads(A-32, 1963年発表)

    マッコイ・タイナー(p)、ジミー・ギャリソン(b)、エルヴィン・ジョーンズ(ds)という最高のリズムセクションを擁するこの時期のコルトレーンのバンドは”黄金のカルテット”とも呼ばれる。本作ではそれまでの彼のインパルス諸作とは異なり、タイトル通り全てバラード曲のみが選曲された。冒頭1曲目「セイ・イット」に始まり、1945年公開の米ミュージカル映画『ダイアモンド・ホースシュー』の挿入歌であり儚い失恋の楽曲「アイ・ウィッシュ・アイ・ニュー」などを収録。思わずため息が漏れるほど美しく、まさにジャズの頂点ともいえるコルトレーンの詩的な感性がとめどなく溢れ出る。評論家アイラ・ギトラーが「シーツ・オブ・サウンド」と評した彼のテナーサックスの甘美なサウンドを余すことなく堪能できる大傑作だ。ちなみに、「オール・オア・ナッシング・アット・オール」以外はどの楽曲も1テイクだったそう。

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    John Coltrane / A Love Supreme(AS-77, 1965年発表)

    数多くあるコルトレーンの作品の中でも際立つ人気を誇る名作。「至上の愛」という邦題でも知られ、「承認 / 決意 / 追求 / 賛美」という4部の組曲で構成されている。見開きジャケットの内側にはコルトレーンが書き上げた神へ捧げる祈りが載る。「ささやかな気持ちで本作(『至上の愛』)を神へ捧げる。感謝の気持ちを心で、そして言葉で、『神よありがとう』とこの作品を通して伝えるのだ」とあり、「人生の輝かしい時には、嵐の中でも雨上がりでも、私たちは決して忘れることがないように。全てはあらゆる方法で永遠に神と共にあるのだ。全ての賛美を神へ。愛を込めて、私は感謝する」という言葉で締めくくられている。本作は、もはやジャズという領域を超越したコルトレーンの精神が具現化したインパルス在籍時の一枚。2003年、ローリング・ストーン誌『オールタイム・ベストアルバム500』では第47位に選出された。

    コルトレーンは『至上の愛』を発表して間もなく、同年夏に『カルテット・プレイズ』をリリース。その後、翌66年には狂気的かつ前衛的な問題作『アセンション』制作の為にコルトレーンは合計11人ものメンバーを引き連れヴァン・ゲルダー・スタジオへ。そこで録音したのは40分でまるまる1曲という究極の即興演奏。そして、黄金のカルテットとされた仲間は彼の元から散っていったのだ。

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    Elvin Jones & Richard Davis / Heavy Sounds(AS-9160, 1968年発表)

    ドラム奏者エルヴィン・ジョーンズとベース奏者リチャード・デイヴィスによる双頭リーダー作。2人によるデュオ演奏でのスタンダード「サマータイム」など、タイトル通り重厚なサウンドを展開。本作にも参加したフランク・フォスター(ts)作の名曲「シャイニー・ストッキング」や、エルヴィンが渋いアコースティックギター演奏を披露する「エルヴィンズ・ギター・ブルース」も素晴らしい。

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    Ahmad Jamal / The Awakening(AS-9194, 1970年発表)

    1930年生まれペンシルベニア州ピッツバーグ出身のピアニスト、アーマッド・ジャマル。50年代に初レコーディングを経験し、58年にエピックからリリースした『バット・ノット・フォー・ミー』がヒットを記録。当時、ジャズのアルバムは1.5万枚〜2万枚売れれば大きなセールスとされたが、同作は4.7万枚以上もの売り上げを誇った。

    彼はマイルス・デイヴィスなど多くのミュージシャンに影響を与えたとされている。いちアーティストとして円熟味を増したジャマルが70年にインパルスから発表した作品がこの『ジ・アウェイクニング』だ。タイトルは日本語で表現するとずばり”目覚め”。演奏はピアノトリオ編成で、流麗なメロディが特徴の「アイ・ラヴ・ミュージック」やハービー・ハンコック作「ドルフィン・ダンス」を収録。50年代以降、軸はブレずにいながらも、ジャマルの音楽は少しずつ変化していった。彼のスタイルは創造性を尖らせながら、進化を止めずより洗練されることに。本作はピアニストとして次のレベルへと突き進む、彼の目覚めの瞬間を感じさせる名作なのだ。

    文:福田俊一(Face Records)

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